機動戦艦ナデシコ

princess of darkness











ACT―♯05 「プラス」と「マイナス」















「ふわぁ〜あ。」


皆が寝静まったころ、ナデシコの廊下をセレスが一人、歩いていた。

彼女の今の格好は、黒を基調とし、袖口と胸元に赤いラインが入ったパジャマと、それと 同じつくりのナイトキャップだ。








窓から見える世界は、闇に染まっている。

明かり一つない、漆黒を塗り固めたような形相を呈す宇宙は、海と同じだ。

全ての生命が誕生し、そして死に逝く約束の地。

その中に、唯一つ浮いているこの船は、民衆を救う、ノアの箱舟となるのだろうか。

それとも、三途の川を渡る、片道切符の渡り舟となってしまうのか。










「お、あれは・・・・・・・・・」


自動販売機が並ぶエリアを抜けるとき、一人の青年に目が視界をよぎった。

肩にタオルをかけ、半袖と長ズボンと言う、ラフな格好をしたその青年の名は、テンカワ・ アキト。

風呂上りなのか、彼の髪は、しっとりと水分を含んでいた。

セレスはそれと無く近寄り、後ろから声をかけた。


「どうした、こんな所で?」


「あ、セレスさん。」


アキトは、セレスと目が合うと、焦ったように視線をそらす。

そんな様子に首をかしげながら、セレスは自販機の前に立つと、オレンジジュースを二つ 購入し、アキトの隣に腰を下ろした。


「ほら、私のおごりだ。」


「あ、すいません。」


そう言って、アキトに缶を一つ渡すと、セレスは自分の缶のふたを開け、一息に半分くら い飲み干した。

気まずそうに口を閉じたままのアキト。

いつもの彼ならば、他愛のない会話の一つや二つ、かけてくる物なのだが。


「それで、何があったんだ?」


「え?」


「何もないって顔はしてなかったぞ。

それに、さっきも今も、きちんと私の顔を見れていない。」



アキトは手に持った缶に視線を落とし、しばらく口をつぐんでいたが、やがてポツポツと 話し出した。



「この間、地球を脱出するとき、セレスさんは頑張ってたのに、俺、何もできなかったか ら。」


「第二次防衛ラインの時のことを言っているのか?」


「それもあるけど、初めて会ったときから、全部ですよ。

俺、セレスさんに、女の人に助けられてばっかりだから、なんか格好悪いな、って。」


アキトは、缶を傾け、中のジュースを流し込む。

味気ない水の様に煩わしく、それでいて酸味の効いたオレンジ色の液体が、火照った喉を 通り過ぎ、身体に染み渡っていく感覚を覚えた。

しかし、目の前にいる女性は首をかしげたまま、アキトをその愛くるしい瞳で見つめてい る。

彼女に目線を合わせようとしても、何処か気恥ずかしげにそらしてしまう。

だが、彼女は眼を逸らさない。


「そんなことはないさ。トビウメでの時は、助けられたと思ってる。」


「それ、一回きりっすよ。俺がセレスさんの助けに、なれたかもしれないのって。」


「それで、一人で、シュミレーターに篭っていたのか?」


アキトは一瞬驚いたような顔をしたが、それでもゆっくりと頷いた。

未だに手に残っているIFSの疼き、それを確認するように。


「ちょっとですよ。0G戦フレームは、空戦フレームとかと勝手が違うって、ウリバタケ さんが言ってましたから。」


「なるほどな。いい心がけだ。」


そう言いつつ、セレスも内心驚いていた。

前回のこの時期、自分は戦闘に参加することに。

というより、IFSを起動すること自体に、嫌悪感を抱いていた覚えがある。

それが、自分から進んでシュミレーションで訓練を行うなど、何かがあったとしか考えら れない。

何か前回とは相違点、ズレが生じているのだろうか?


「セレスさん、どうかしたんですか?」


「え?あ、すまない。少し考え事をしていてな。」


気を紛らわせるように、セレスは残っていたオレンジジュースを全て飲み干すと、スクっ と立ち上がった。


「あ、もう、行くんですか?」


「ああ、少し格納庫の方に用があってな」


「え?か、格納庫っすか?」


「ああ、そうだが。どうした?」


「いや、あの。その格好で行くのは、どうかと思いますが・・・・。」


セレスは言われて、自分の身体を見回した。

着ているのは黒を基調としたパジャマ。

ゆったりとはしているが、以前のワイシャツより露出度は高くはない。


「何か問題があるのか?胸が見えてしまうということもあるまい。」


「い、いや。それはそうですが・・・・・・・・・」


別段、服装に問題がある訳ではない。

が、セレスの持つ雰囲気とそのパジャマが一つになった時、尋常ではないほどの問題が発 生するのだ。


服の黒さ故に目立つ肌の白さ。

見ていると抱きしめたくなる、キメ細かなうなじ。

肌蹴た胸元から除く、僅かな谷間。

就寝時だからであろう、彼女は下着をつけてはおらず、解放された先端の突起は、微かに 服を押し上げていた。


これだけでも十分な破壊力を内蔵しているというのに、トドメとばかりに登場するのが、 彼女が被っているナイトキャップだ。

セレスに元々備わっていた、一種の近寄りがたい雰囲気を、見事に吹き飛ばしてくれてい る。

彼女の雰囲気とナイトキャップは、異様にマッチして、限りなく可愛らしかった。

大体、セレスがナイトキャップを着用するなど、誰が想像しただろうか?


ついつい胸の谷間に目が行ってしまうのが、男の性。

こんな格好で格納庫に行った日には、襲われることはないだろうものの、また一騒動ある ことは必須である。


「何だ。何もないなら行くぞ?」


「あ、ちょっと、まってくださいよ!」





















「セイヤさん、いるか?」


「おう!どうした?・・・・・・って、また凄い格好してるな。」


スパナ片手に、セイヤは溜息をついて言った。

今の時刻は草木も眠る丑三つ時。流石に格納庫にも人は少ない。


「そんなにこの格好は妙なのか?自分ではよくわからんが。」


「まぁ、似合うといえば似合うが、格納庫にパジャマで来るのは感心できねぇな。

せっかくの服が、汚れちまうぞ。」


「む、わかった。これからは私服で来よう。」


「うう、はんちょぉ〜、そんなぁ〜。」


瞬間、格納庫に残っていた一部の整備員が、大げさに溜息をついた気がしたのは、気のせ いではあるまい。









「で、アキトと二人で何しに来たんだ?

こんなところに、デートしに来たわけでもあるめぇ?」


「ああ、それも良いんだが、残念だが今日は少し頼みがあってな。」


冗談交じりに微笑を織り交ぜ、妖艶さを交えていう。

そんな様子に、年甲斐もなく頬を桜色に染めながらも、ウリバタケは鸚鵡返しに返した。


「頼み?」


「実は・・・・・・・・・・・・・・・」


「おお、なるほど。あのブースターを使うんだな・・・・・・・・・」


「ちょっと気になる事が・・・・」


「ああ?少し考えすぎじゃないのか?・・・・・・・・・・」


「だが、万が一・・・・・・・・・・・」


結局、プチ会議は30分ほどで終了し、その間、アキト及び整備員全員は、寝間着姿のセ レスを、しげしげと眺め続けていた。

















「サツキミドリ二号までの所要時間、残り約2時間です。」


「報告ありがと、ルリちゃん。それで、今アキトどこにいるか解る?」


「格納庫にいます。ちなみに、セレスさんと一緒・・・・・・・って、聞いてませんね。」


ルリが報告を入れた瞬間、ユリカの姿は廊下へと消えていた。

現在ブリッジにいるのはルリ、ミナト、メグミ、そしてジュンの三人だけだ。


「んじゃ、ジュンさん。これからの指示をお願いします。」


「え?ぼ、僕が?」


「当然です。艦長がいなくなっちゃいましたから。」


「ぼ、僕がこのナデシコの指揮を取れるのか!?」


帰ってきてようやく目立てる初仕事。

ジュンは感動して男泣き、いや、漢泣きを漏らす。




「いえ、ただ、そこにいてくれればいいです。

今は特にやることはありませんし、有事の時には艦長を呼び戻しますから。」


「・・・・・・・・・・・・・・・え?」


「あ、なんならゲキ・ガンガーの人形でも置いていてくだされば、

それでもいいんですよ。別にどっちでも大差はありませんから。」


「ぼ、僕はたかが人形と同じレベルで扱われるのか。」





「ちょ〜っと自己認識が甘いわよねぇ、アオイ君は。」


「今頃知ったんですかね?」


ルリの左右で、ミナトとメグミが言いたい放題。


「そ、そんな。じゃぁ、僕の存在理由ってなんなんだ?」


「ずばり、雑用。」


「私達が面倒な事を全部引き受けてくれる、便利屋さんみたいなものですかね?」


「そ、そんな。せっかく、このナデシコに戻ってきたというのに。

ユリカを守るため、僕は、僕は・・・・・・・・・・。」

















「てか、はっきり言って、影が薄いから、

いてもいなくても変わんないですよね。いや、マジで。」













「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」












憐れ、ジュン。



だが、今日彼は、素晴らしいレベルアップを遂げた。


そう、彼は、『自分のアイデンティティ』と

『自分の仕事』を正確に確認したうえ、




奥義『ハーリーダッシュ!』を習得したのだ。






















・・・・・・・・・嬉しくはないだろうが。






















「んじゃ、セレスさん先行よろしくお願いします。」


『了解した。では、零式、出るぞ!』



「あれ?あと30分も経てば付いちゃうのに、何でセレスさんが出るの?」

「いやはや。彼女の強い要望でして。

デルフィニウムのブースターを使用してまで先行するとは、何かあるんでしょうかねぇ?」



ミナトの問いに、ブリッジに戻っていたプロスが答えた。



「ま、とりあえず、ナデシコはこのまま前進しちゃってください。

それとジュン君、搬入物資の確認、よろしくね。」



「うう、やっぱり僕は雑用係なのか?

誰も僕を必要としてないのか?」







「だから、雑用係として必要とされてるじゃない。」


「しっかりと、艦長を守ってあげてくださいね、アオイさん。」







「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」










「あ、ちょっと、ジュン君!

どっかに行くなら、ちゃんと書類を整理してから行ってよ!!」






「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁん!!!」
















アオイ・ジュン。

彼は、本気で、ナデシコに戻ったことを、後悔していた。

























「サツキミドリ二号を肉眼で確認。

もう、ブースターは必要ないな。」


セレスの呟きに合わせ、ガシュン、と、零式に無理やり取り付けておいたデルフィニウム のブースターが外された。

そして、近距離戦闘用パーツを取り付けられた、零式が姿を現す。



「前回、木星トカゲがサツキミドリ二号を襲ったのは、ナデシコが着艦するほんの少し前 だった。

このタイミングなら、まだ被害は出てないはずだ。」



コンソールに置いた手に力が入る。

以前は助けられなかった人たち。




「今度こそ助けてみせる!」



















「くそっ!まさかこんなに多いとはな!」



ラビットライフルをばら撒きながら、セレスが悪態をついた。

辺りには、50を超えるバッタ達の残骸が広がっており、

そして今、100を超える敵が、セレスに向って襲い掛かってきていた。


「こんなことなら、近距離戦用パーツだけじゃなく、他のもつけて来るべきだったな。」


バッタの数は、セレスが予想していたものより、遥かに多いものだった。

過去の世界で、エステバリスを奪ったバッタの数は、10にも満たない数だった。

それで、今回もその程度の敵の数だろうと思ったのだが、それは、大きな間違いだったよ うだ。


考えてみれば、以前のバッタも、その勢力は、サツキミドリ二号を大破させるほど、凄ま じいものだったのである。

それが、エステバリスを乗っ取ったあの数匹だけに減っていたというのは、

おそらく、サツキミドリ二号が爆発した際、大半のバッタが巻き添えを喰ったからであろ う。


実際には、過去も今も、大量のバッタがこの戦闘に導入されていたのだ。

それを考えなかったのは、完全に失念、セレスのミスだった。



「文句を言っても仕方がない。とりあえず、奥に急ごう。」



セレスは、物資搬入用のゲートから中に入り、ひたすら中心部を目指していた。


いくらバッタの数が大量でも、サツキミドリ二号を、完全に破壊するほどの火力は備えて いない。

おそらく、以前はサツキミドリの動力源である核パルスエンジンを破壊し、それによる暴 発で、コロニーを破壊したのだろう。

だとすると、事前に核パルスエンジンを停止させてやることができれば、最悪でもコロニ ーが壊滅する事だけは防ぐことができる。


それが、セレスの読みだった。



「ここか。」



目の前の扉には、大きく赤い文字で、

『メイン動力炉、関係者以外立ち入り禁止』と書いてある。



「これさえ止めれば。」



ハッチの右側に付いている文字盤をいくつか操作すると、扉は簡単に開いた。





刹那、セレスの視界に、黄色い物体が飛び込んできた。




「しまった!」



いくらセレスと言えども、その反射能力には限界がある。

扉の向こうに潜んでいたバッタに、瞬時に対応できなかった。

そして、バッタは、そんなセレスを嘲笑うかのように、背中のミサイルを発射しようとし、 直後、いきなり吹っ飛んだ。





「おい、大丈夫かよ、お前。」


「あれれ〜。あなたってここの配属の人じゃないよね?」


「死にに来た。・・・・・・・って、ワケじゃなさそうね。名前を聞いて良いかしら?」




セレスを助けた3機のエステバリス。

赤、オレンジ、緑に染められた機体。

初めて会うけど、昔から知っている大切な戦友。

彼女らを目の前にして、セレスの顔には、我知らず笑みが浮かんでいた。




「助かった、礼を言う。私の名はセレス・タイト。

ココはもう持たないだろう。避難民の収容して、ナデシコに合流してくれるか?」























「では、スバル・リョーコさん、アマノ・ヒカルさん、マキ・イズミさんの収容、確かに 確認しました。

避難民の方々は、このままナデシコで救援部隊が来るのを待ってもらいましょう。

幸い、サツキミドリ二号も中破程度ですんでいます。」


「りょ〜かい。」


格納庫では、コロニーから帰艦したセレス、新規パイロット三人。

それからブリッジクルーと、野次馬の整備員が集まっていた。


さり気無く、避難民が入っているポッドが、そのまま転がされているが、それに気付く良 心ある人はこのナデシコには乗っていないようだ(爆笑)

そろそろポッド内の酸素も少なくなってきただろうに(爆死)


「それでは、パイロットの皆さん、自己紹介をしてもらえますかな?」


プロスの提案に、野次馬整備員が歓声を上げた。


「めんどくせぇなぁ。ま、俺はスバルリョーコ。

好きなものは御握り、嫌いなものは鶏の皮だ。」





「うおぉぉぉぉおぉぉぉ!!!」(整備員の叫び)





「私はアマノ・ヒカルです。蛇使い座の18歳、B型!

好きなものはピザの端っこの硬いところと、湿気たおせんべいでっス♪

よろしくお願いしま〜す!!」





「うおぉぉぉぉおぉぉぉおおおぉぉ!!」(整備員の血の叫び)





「マキ・イズミ。趣味はダジャレと三味線。よろしく。」





「うおぉぉぉおおぉぉおおおおおぉぉおおおぉ!!」(整備員の魂の叫び)




整備員の雄叫びに、少々退く三人だったが、歓声を上げられて、あまり悪い気はしない。


だが、そんな彼女たちの心とは裏腹に、整備員達の心の声は、かなり邪悪に一致していた。









「(女の子が増える!またセレスさんの時と同じようなチャンスが!!!)」






セレスの裸身(と言っても、見えたのは胸だけだが)は、整備員達にとって、忘れられな い思い出となったようだ。(爆死)






















「で、この艦のパイロットは誰なんだ?」


「あ、私も知りたい〜。セレスさんと、もう二人いるんだったね?」


エレベーターの中、リョーコとヒカルが質問した。


「あ、それは・・・・・・・・・」


ユリカがアキトの紹介をしようとする前に、アキトが口を開いた。


「あ、一応俺がやってます。」


アキトの言葉に、リョーコとヒカルは意外そうな顔をし、ユリカは頬を膨らませた。

そして、セレスは腕を組んだまま、少しだけ眉をひそめる。


「え〜、嘘〜!!」


「ほ、ホントだよ!」


「だって何か君、やさしそうな目をしてるもん!

戦う人って感じはしないし。」


ギャーギャーと二人が言い争っているのを見て、 セレスは自嘲気味に笑みをこぼした。


そう、この戦いに向いていないように見えた青年が、A級ジャンパーとなり、全ての渦の 中心となり、

そして、史上最悪といわれた復讐鬼と呼ばれるようになったのである。


「おい、お前セレスって言ったよな?」


「ああ。」


リョーコの問いにも、過去を振り返っていたセレスは、 大して反応をせず、生返事で答える。


彼女の視線の先にはアキトが、過去の自分がいた。


「さっきの戦闘じゃ、はっきり言って助かったぜ。

しかし、核パルスエンジンを止めようなんざ、いい読みしてるじゃねぇか。」


「そういうお前達も、同じ所に行ってたんだ。

それに、私はもう少しで落とされるところだった。」




この世界のアキトには、自分と同じ想いをさせたくはない。

あのような未来は、決してあってはならないのだ。





「んでよ、サツキミドリ二号に、残ったエステを取りに行くまで、まだ時間があるじゃね ぇか。

一緒に風呂にでも入らねぇか?風呂上りのジュースぐらいは奢るからよ。」


「いいだろう。では、私は、部屋に戻って着替えをとってくる。」


チンッ、と音がして、セレスの部屋がある居住区に、エレベーターが止まった。

セレスはアキトから視線を外すと、後ろを振り返ることなく出て行った。




せめて、彼には幸せになってもらいたい。

自分のような結末は、迎えて欲しくない。



その為に、帰ってきたんだ。

歴史を、変えるために。






握り締めた拳の隙間から、ポトリ、と血がこぼれた。















そして、セレスは、自分が何と言っていたのか、全く理解していなかった(爆笑)
















「さっきはやばかったな。リョーコたちが、来てくれなかったら。」


部屋に入るなり、セレスは溜息をついた。

どうも、このナデシコに戻ってからと言うものの、自分の中にあった、

一種の緊張感、張り詰めたような感じが、次第に、欠落していっているような気がする。


心の氷が、解けていく、感覚。

少しむず痒い、だが、心地よい、感触。


「これが、ナデシコか。」


だが、今の自分に、ぬるま湯に浸かる事を、許すわけにはいかない。

まだ、全ては始まったばかりなのだ。

今回のように、命の危機に瀕することが何度もあるようでは、歴史を変えることなど、で きるはずがない。




「まぁ、済んだ事だ。今更言っても、仕方あるまい。

さて、風呂に入る準備でもするか。」





ごそごそとタンスの中の衣類を調べながら、

ふと、先ほどリョーコが言った言葉を思い返した。





『一緒に風呂にでも入らねぇか?』




「一緒に?俺と、リョーコちゃんが?」






呆然と、口調がもとに戻ってしまってるのにも、気付かないで呟く。

その意味を理解するまでにかかった時間は、およそ30秒。

セレスは、ようやく、自分が何を言ったのか、正確に理解した。
























カポーンッ



「はぁ〜、やっぱ汗かいた後の風呂はいい気分だぜ。」


「昔の人が、『風呂は命の洗濯だ』っていたのも、なんか、わかる気がするよねぇ。」


「この温泉は、美容、痔、低血圧等に効果があり・・・・・・・・・」


「イズミちゃん、ここ、温泉じゃないよ。」


約束どおりの女風呂大浴場。

正確に言うと、セレスは死ぬ気で抵抗したのだが、

一度約束してしまった上、断る理由を説明できないとなれば、多少強引となっても、風呂 場へと連れ込んでしまうのが普通。





てなわけで。





「おい、セレス。何で、お前、さっきから向こう向いてばっかなんだ?こっちに来いよ。」


「い、いや。私はこっちでいい。」


セレスは三人から5メートル程離れた所で、一人湯船に浸かっていた。

曲がりも何も、つい最近まで男だったセレスには、いささか刺激が強すぎるのだ。

顔を真っ赤にしながら、それでも口調は冷静に拒否した。


「ふ〜ん。ま、いいけどよ。」


「す、すまんな。こうやって女性と一緒に入浴する事が、滅多になかったから。」


「そうなのか?」


「あ、ああ。」


というか、あまり有り過ぎると、人間としての甲斐性を疑ってしまうだろう(笑)

実際、セレスは、過去現在に至って、女性と言える人物と入浴した事は、母親以外、一度 としてなかった。

…言葉から「男性と一緒に入浴すること」が多かったなどと悟れた人間はいなかったよう だが(核爆)












むにゅ








「あ〜、セレスさんって意外に胸大きいんだ。

86のDってトコ?」








ヒカルの行動に、セレス暫し呆然。



何か言おうとして口を開くのだが、意味ある言葉は漏れては来ず、

それをいいことに、ヒカルは背中からセレスに抱きついたまま、その柔らかな膨らみを堪 能する。






「胸大きい人っていいなぁ。艦長とか、ミナトさんとか。セレスさんも。」


「あうあうあう・・・」




セレスは、意味のある言葉を発する事ができずにオロオロ。

ヒカルは、セレスの胸を揉みながらニヤニヤ。


「ったく、始まりやがった。ヒカルの悪い癖だぜ。」


「干し葡萄。それはレーズン、レズ、くくくくくく。」


「あ、それって偏見。私、レズじゃないよ。

こうやって親睦を深めてるだけ。」


「親睦ねぇ、どうでもいいけど、セレス、固まってんぞ?」




「もう、セレスちゃんったら、こういう時には、ちゃんと揉み返してくれないとダメじゃ ない〜♪」



「も、揉み!?」


背中に、指で文字を書きながら言うヒカルに、セレスは上擦った声を上げた。


「そ。はい、ど〜ぞ。」


「へ?って、わあぁぁぁぁぁぁ!!」


目の前に突き出された二つの膨らみ。

完全に狼狽しているセレスをよそに、当のヒカルは、ニコニコと邪気のない顔で笑ってお り、

自分の胸を、両手で押し上げるようにしながら、逃げ回るセレスの眼前に持ってくる。


「あ〜ん、ちゃんと友情の儀式やろうよぉ。」


「いい、俺はいい!絶対にやらない!!」


「もう!セレスちゃんのいけずぅ。リョーコ、イズミちゃんも、ちょっと手伝って!」


「りょ〜かい。」


「りょうかい、貝を採る。それは、漁、貝。」


「か、勘弁してくれってリョーコちゃん!」


新たなる敵の出現に、口調が元に戻るほど焦りながら、セレスは堪らず浴槽を飛び出した。




「す、すまん!私はもう十分に温まったから、上がる!」





が、






「わ、バカ!危ねぇって!」


「へっ?」






ツルッ




ドテーッン






あせったセレスは、普通なら、まず気付くであろう

ベターな石鹸の存在に気がつかず、かなり間抜けな音と共に、もんどりうって頭からタイ ルに激突した。


「痛つつつつ。」


「お、おい。大丈夫か?」


「だ、大丈夫〜、セレスちゃん。なんか、すっごい音したけど。」


「ちょっと、冗談が過ぎたようね。大丈夫?」



「ああ、すまない。大丈・・・・・・・・・・。」


痛む頭をさすりながら、“大丈夫”と、目を開いたセレスの視界に飛び込んできたのは、

心配そうな顔をして自分の見つめる、三人の女性の裸体の大アップ。


しかも、三人が三人とも、倒れたセレスの顔を覗き込むように、身をかがめているので、

必然的に、セレスの視界には、ちょうど柔らかな双丘が6つ、

水滴を纏って艶やかさを帯びたまま柔らかに揺れているのが入ってくる。



そして、視線を、下方に、ずらしたその先には・・・・・・・・・








「ふぅ〜・・・・・・・・・・・・・(パタッ)」












セレスは、今度こそ、気を失った。






















「うう、くそ。酷い目に合った。」


本当に酷い目か、それとも、この世の極楽に遭遇したのかは

人によって非常に判断が微妙なところだが、少なくとも彼女にはそう思われたらしい。


零式のアサルト・ピットの中で、セレスは忌々しそうに呟いた。


「なんか、あったんすか?セレスさん?」


「私に聞くな。」





「やっぱ、怒ってるぞ?ヒカル、お前責任とって、どうにかしろよ。」


「だって〜、あんなに怒るなんて思わなかったんだもん〜。」


「責任、とって、影印とって、まるごと…影印写し…ぷっ(謎笑)」




「そこ、私語をするな。」


「はい!」×3



「では、作戦を確認するぞ。

エステバリス隊は、サツキミドリ2号に潜入後、搬入予定だった0G戦フレームの回収。

及び、残存的勢力の殲滅の任に当たる。いいな?」



「了解!」×4



「よし、それではミッションスタートだ。

ナデシコからのエネルギー供給、切れるからな。」



「よっし、行くぜ!」


「素潜り開始〜」



エステバリス隊は、サツキミドリ二号の中に吸い込まれるようにして消えていった。














サツキミドリ2号に侵入してから3分弱。

セレス達は、木星トカゲと出会うことなく、格納庫へとたどり着いた。

隅に、1機のエステバリスが転がっているのがわかる。


「でっかい真珠見〜けっ!」


「これはガイの分かな。

そういや、あいつ。今日姿が見えないけど、どうしたんだろ?」


呟きながら、アキトはエステにソロソロと近づき、

セレスの零式が、それを手を上げて制した。


「セレスさん?」


「不用意に近づくな。・・・・・・・・・・・・・来るぞ。」


次の瞬間、倒れていたエステバリスが起き上がり、

それに取り付いていたバッタが、大量のミサイルをばら撒いた。













「大丈夫か?」


「なんとかな。くそ、エネルギーの無駄遣いさせやがって。」


「デビルエステバリスだ〜!」


「トカゲに乗っ取られたようね。」


宇宙空間での機動性を活かして半分以上を避け、その残りを撃ち落したセレス、フィールドの出力を上げて防御に徹した三人。

そして、セレスの問いに三者三様で答える・・・・・・・が、アキトの姿が見えない。


「おい、アキト?・・・・・・・・・・って、そこか。」


アキトのエステは、見事に、サツキミドリ2号のチタンカーボンの壁へと、頭をめり込ませていた。

両手を必死に動かして、そこから脱出しようとしているようなのだが、いかんせん上手く いかないらしい。


なんか、マヌケだ。




だが、アキトのエステに損傷は見られない。

それは、セレスに驚愕を与えるものとして、十分すぎるものだった。

エステバリスを操縦し始めて1週間と経っていない素人が、あのタイミングでの攻撃を、 全てかわしきるとは。


「頼りになるんだか、ならないんだか。」






「総重量はそっちが上なんだ、行っくぜー!!」


セレスが笑みを漏らしたのとほぼ同時に、リョーコ達三人がデビルエステバリスに向って 突っ込んでいった。


リョーコは素直に真っ直ぐ、ヒカルはちょっと捻って、正面と見せかけて、横から追撃を。

イズミは後ろの方から二人の支援をしつつ、敵の回避経路を塞ぐ。

一朝一夕では身に付かない、見事なコンビネーション。


だが、




「なんだぁ!?」


「嘘ぉ!」


デビルエステバリスは、本来のバッタ部分の触手を伸ばすと、フックのように鉄骨に絡ま せ、

それを引き寄せて移動する事により、リョーコ達の攻撃を見事にかわした。



「なんてバッタなの、そば職人に使われる道具のような動きをするなんて!?」


「そりゃ“ザル”だろぉが!ありゃ、サルだ、サル!」




「いや、アレはどう見てもエステバリスだと思うが。」



リョーコ達のすぐ隣に降り立ったセレスが、ポツリと呟いた。



「ノリだ、ノリ!ノリと勢い!・・・くそっ、機械の癖にチョコマカと動きやがって。」


「ああいう奴を相手にするのには、コツがあるんだよ。」


含み笑いを浮かべて、眼前のエステバリスを一瞥する。


「コツ?」


「まぁ、見てろ。」





リョーコ達から距離をとると、セレスは目の前のエステバリスに向き直った。

スラスターが小さな炎を吐き、零式が、ゆったりと前傾姿勢をとりながら、浮き上がる。

セレスが戦闘状態に入ったのを確認したのか、バッタもエステを構えなおした。



「アキト、私に合わせろ。行くぞ!」


「え?あ、はい!」



アキトが頷いたのを視界の端で捕らえ、スラスターを吹かし、一瞬で天井すれすれまで上 昇して、

腰に装備された超振動ダガーを抜き放ち、デビルエステバリスに向って“落ちる”。


転瞬、デビルエステバリスは、回避行動に移る。





だが、零式の機動力は、従来のエステバリスを、遥かに上回っていた。

デビルエステバリスが、動作を開始するときには、その姿は、既に零式の攻撃範囲内にあ る。

零式の姿は、まさに、黒い疾風。






「甘い!」




一閃。



セレスがダガーを振るい、一瞬遅れて右腕についているバッタが宙を舞い、爆散した。



慣性につられ、デビルエステバリスはバランスを崩す。

そこへ更にガトリングバルカンをばら撒き、今度は左腕のバッタが飛ぶ。



「今だ!」


「ゲェェェッキガン・フレアアァァ!!」



がら空きとなったボディに、アキトのエステのディストーションフィールドを纏った拳が、

吸い込まれるようにして、叩き込まれた。



長年の付き合いで培われた、リョーコ達の絆にも、決して見劣りしないコンビネーション。

“この短期間でこれほどまで”と、見事としか言いようがないそれも、

セレスから見れば至極当然のこと。


そう、ここにいる二人は、姿は違えど、同一人物なのだ。

息が合って当然、と、そう思える。



衝撃に機体を軋ませ、デビルエステバリスは、コロニーの壁へとぶつかり、埃と煙の中に 消えた。


少し遅れて、零式とアキトのエステが仲良く着地する。


「すっげぇな。」


セレス達の動きに見とれていたリョーコが、感嘆の声を上げた。

だが、セレスの表情は厳しいままだ。

格納庫内を漂う埃の量が減り、少しばかり視界が晴れると、セレスの目がすっと細められ た。


視線の先に、そこにいるはずのデビルエステバリスの姿はない。

かわりに、馬鹿でかい穴が、そこにはあった。その先にあるのは、漆黒の世界。


「まずい、コロニーの壁を突き抜けたか。」


「おい、ありゃナデシコの方向じゃねぇのか!?」


「追うぞ!」


数瞬遅れて、5機のエステバリスが宇宙空間へと躍り出た。

デビルエステバリスの姿は、既に300メートルほど先にある。


このままじゃ、ナデシコが危ない!





と、思った刹那。






「ガハハハハハハ!萌える燃えるシュチエーションだぜ!!」




馬鹿高笑いと共に、一機のエステバリスがナデシコから飛び立った。




「馬鹿野郎!陸戦用フレームで、宇宙戦闘が出来るかよぉ!!」



という、整備班の罵倒声援を引っさげて(爆笑)









「ガイ!何でお前がココに!?」


流石のアキトも、“陸戦で宇宙空間に出るなよ”とは言わなかった(爆笑)


ナデシコから出たガイのエステは、方向を変えることなく、

デビルエステバリスに向ってただひたすらに突き進む!


もっとも、スラスターがうまく効かなくて、方向転換が出来ないだけなのだが(爆死)




「ふ、甘いぜアキト!

ピンチに陥る仲間、そしてナデシコ!

その時、無敵のヒーローが颯爽と現れ、あっという間に敵を殲滅!

これ以上、俺様に相応しいシュチエーションが、あるかってんだ!!」




「・・・・・・・・もしかして、その“颯爽と現れる”為に、

今日、いままで登場してなかったの?」




「その通り!!」


一同は唖然とするばかり。

そしてそのまま、ガイはデビルエステバリスに激突した。





ドゴオォォオォオン!!





スラスターでちょっと機体の位置を変えたら避ける事も可能だったと言うのに、

情けで当たってやるあたり、木星トカゲは、やはり、義理人情に厚いらしい(爆死)





そして、ガイ曰く “燃えるシュチエーション” を見たパイロットの心中と言えば、




馬鹿だな。」


馬鹿っぽい人だね。」


馬鹿ね。」
 











ガイのナデシコ内ランクが、ジュンに一歩近づいた

記念すべき日だった(爆死)

















あとがき座談会



メフィスト の発言 :
んじゃぁ、最初をどうぞ(笑)

しょうへい の発言 :
ではでは、POD五話のあとがき座談会を始めます、わー(一人盛り上がり

メフィスト の発言 :
わ〜(二人目無理やりハイテンション

しょうへい の発言 :
さて、この五話、大筋はメフィ氏、改訂私となっております(身の潔白を証明する

メフィスト の発言 :
何だよ何だよ!結構まとも(俺にしては)だろ!?(ぇ?

しょうへい の発言 :
え〜?

しょうへい の発言 :
まとも〜?

メフィスト の発言 :
清純な一般男子を捕まえて何を言う!全然普通じゃないか!

しょうへい の発言 :
性少年?

メフィスト の発言 :
・・・・・・ふ、あえて否定はするまい(爆死)

しょうへい の発言 :
否定してくれないとコッチも困る(汗

メフィスト の発言 :
・・・ゴホン、ゴホン、あ〜あ〜。

しょうへい の発言 :
話を元に戻そう。

メフィスト の発言 :
りょ、りょうかい(汗)

メフィスト の発言 :
これが事実上初めて話を書いたSSなんだよなぁ。前回は手直しだけだったから

しょうへい の発言 :
まぁ、書き方が違うから、私が改訂しても私の書き方に似てしまうわけで、メフィスト氏 の書式と混ざるわけなんですよ。

メフィスト の発言 :
まぁ、そうだね。でも、それが同盟でSS書くいいとこでもあるんじゃない?

しょうへい の発言 :
読者目で私の書き方は細かい(細かすぎて会話が少ない)らしいんですが(苦笑

メフィスト の発言 :
そなの?そりゃ気づかなかったなぁ

しょうへい の発言 :
見てみれば解りますよ、私の書き方は叙情的な部分より情景部分の方が割合として大きい ので

メフィスト の発言 :
ふ〜ん。俺はSS書いたことないからわからん(爆死)

しょうへい の発言 :
まぁ、じっくり見てみてください、私の書いているナデシコではMARZを、他にはSEED全 般を。

メフィスト の発言 :
ふはは、すでに既読済みだよ。まぁ、せりふは確かにもう少しあってもいいかもねw

しょうへい の発言 :
細かすぎて疲れるんですよ(はぁ

メフィスト の発言 :
ふ〜ん、ところで、今回で仲間も増えたけど次回はどんな感じで?

しょうへい の発言 :
次回はもう出来上がってる、フィーリングはルリ×セレスかな?

メフィスト の発言 :
おおおお!?それはなかなか見物なカップリングですな!(煩悩を刺激されたらしい

しょうへい の発言 :
今回を凌ぐものを書いてしまったようです>私が

メフィスト の発言 :
ふ、しょうよ。ついに一皮剥けたな(サムズアップ

しょうへい の発言 :
いえいえ、貴方ほどでは・・・(苦笑い

メフィスト の発言 :
ふ、俺の煩悩なぞ君に比べたら

しょうへい の発言 :
な、なんとぉぉ〜〜!?

メフィスト の発言 :
ま、とりあえず俺を凌ぐすごさを誇る次回に期待ということだね(ニヤァ

しょうへい の発言 :
は、ははは・・・(もう笑うしかないね

メフィスト の発言 :
んでは、ここらで今回はお開きかな?

しょうへい の発言 :
早いね。

メフィスト の発言 :
う〜ん、あまり長すぎてもね(苦笑)

しょうへい の発言 :
ではお開きにしよう。

メフィスト の発言 :
りょかwおつかれ〜




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