機動戦艦ナデシコ

Princess of Darkness

ACT−#5.9 「Quiet resolve」














耳障りな雑音、金属の悲鳴と地響きが耳を劈く。
巻き上がった土と埃、そして硝煙が霧のように霞み、風の形を模した。
数え切れないくらい穿たれた地面は更に抉られ、見るも無残な様を呈している。
その中を、一機の機動兵器が駆け抜けていた。

渓谷、というのが正しいだろうその地形。
しかし、起伏の激しすぎる地点が多々点在するため、河が網目のように走っている。
河川と地面の高低差は1メートル〜20メートルといったところか、
自然の造形が現されているその場所。

高台の上から、機動兵器、赤い陸戦フレームのエステバリスは左右を見回した。
標的を見失ってから既に1分と32秒が経過している。
赤いエステバリスのパイロット、スバル・リョーコは久方ぶりに、
水分を求めて焼け付く喉へ唾液を滑らせた。
忙しなく眼球を左右に動かすが、敵の姿はない。
高低差を利用して目標を発見しようと画策していたのだが、それも徒労になりそうだ。

天候は雲量3の晴れ、風向きは北西、風力は2。
湿度は6割、気温は摂氏18.2。
時折風が止まるが、良好な状態だった。

彼女が探しているのは、セレス・タイトの駆る灰色の陸戦フレーム。
戦闘開始直後はお互いにラピッドライフルによる牽制を行い、相手の出方を伺っていたが、
リョーコが一気に距離をつめ、イミディエットナイフによる近接格闘戦に持ち込んだ時、
戦いはがらりと変わった。
灰色エステバリスは倒れこむようにして前転。
キャタピラを回転させた踵を赤いエステバリスの頭部、
アイセンサーユニットに振り下ろし、半壊させると、胸部装甲を一蹴して離脱。
リョーコは辛くも視野に影響が少なかったアイセンサーをそれに向け、
ラピッドライフルを乱射したが、灰色のエステバリスは渓谷の地形をうまく利用して、
低く沈んだところに飛び込んでいた。

それから今に至るわけだが、リョーコは未だに灰色のエステバリスの姿を見つけられていなかった。

一瞬、風が凪いだ。
それと同時に、リョーコのコックピットの計器が待ちわびていたかのように警告を叫ぶ。


「着やがったか!」


臨戦態勢を整えていたリョーコは、機体を翻し、
警告の原因、投擲されたイミディエットナイフをナックルガードで叩き落した。
甲高い金属音が地面に突き刺さり、遅れてナイフが土を焦がす。
その時、起伏の激しい高台から灰色のエステバリスが飛び出した。


「仕留めさせて貰う!」


「はん!自分の心配を忘れてるんじゃねぇかぁ!?」


青い空の中を文字通り、『跳んで来る』灰色のエステバリスは、
右腕を正面に突き出し、慣性に任せて赤いエステバリスに向かって美しい放物線を描いた。
無線を通じて届くセレスの言葉に、リョーコはライフルを構えて答える。
リョーコが肉眼で灰色のエステバリスを確認すると、ライフルはオート掃射で弾を吐き出した。
硝煙の尾を引いて一直線に突き進む弾丸。
その凶弾の雨の中を、灰色のエステバリスは錐揉み回転とスラスターを使い、巧みに掻い潜った。
接近する灰色のエステバリスに、ライフルを捨てた赤いエステバリスは、
イミディエットナイフに持ち替える。

だが、そこから先はリョーコの考えていた展開とはまるで違った。
まるで氷山が崩れ去るような音を伴い、
灰色のエステバリスは赤いエステバリスの数メートル前に拳を突き立てた。

突然の展開に眼を白黒させながらも、
リョーコは高波の如く襲い掛かる土砂から逃れるために後ろへ跳び、
ディストーションフィールドを全開にした。


「眼晦ましの心算かよ、っの野郎!」


粉塵の中に紛れた強襲した灰色エステバリスの姿は未だ確認できない。
赤いエステバリスは煙の渦から距離をとると、油断なくライフルを構えた。
幸い地上戦であるがゆえに、下方の心配はない。
来るのは右、左、上、正面。
一呼吸置いて、リョーコが目を左右に走らせたその時、
煙幕の中心からワイヤードフィストが猛然と突き進んできた。


「もらった!」


煙から伸びるワイヤーの根元に照準を合わせつつ、フィストの進路からはなれる。
飛んでくるフィストの進路から前傾姿勢でそれた後、リョーコは未だ晴れない煙幕の中にありったけの弾丸を放った。








事の起こりは数分前になる。









被服室で制服を受け取ったセレスは、気まぐれで寄り道をすることにした。
向かう先はエステバリスのシミュレーションルーム。
過去に戻ってからエステを操縦していなかったこともあったのだろう。
セレスの愛機はゼロなのだが、エステも動かせることには代わりがない。
訓練というよりは、慣れを取り戻すことに近い感覚でシミュレートをするつもりだった。

実際ゼロとエステでは操作感覚に微妙な差異がある。
エステだとIFSの性能を余すところなく、それでいて最大限に使えるのだが、
ゼロの場合は何事をするにも疲れてしまう。
加えてパーツをつければつけるほど負担が増える。
それは単にセレスの空間把握能力が達していないのか、
それとも、ハードとしてゼロには問題があるのか。







「よぉ、セレスじゃねぇか。」


休憩所に差し掛かったところで、セレスの横あいから声が届いた。
首を振ると、声のした方向にはリョーコがいた。
片手に炭酸飲料の入ったボトルをもち、あまり寛(くつろ)ぐ様子もなしに卓球台に寄りかかっている。


「ん、何だ?」


セレスも一度足を止め、リョーコのいる卓球台の元に歩み寄った。


「これから暇か?」


「いや、今からシミュレーションでもしようかと思っていたところだ。」


「そうか、ちょうど良いや、俺も付き合って良いか?」


「ああ。」


セレスの返事に、リョーコが立ち上がってボトルのキャップを閉める。
腕に力が入った境目が無言の合図となり、二人は連れ立ってシミュレーションルームへと向かった。






ナデシコの中には様々な遊戯室が存在する。
無論、その中にはエステバリスシミュレーターもある。
3D擬似空間の中、フィードバックされたデータを下に、戦闘場所の条件も何もかも調節できる優れものである。
操作方法はIFS。
膨大なデータで作られた空間の中をデータの塊が動き、パイロットは絶えずデータを送り続けるわけで、
そのシミュレートマシンだけでも高速演算処理が可能。
軍用の戦闘機シミュレーションより現実的なのが売りである。







アナログウォッチの短針が8を指し、長針は丁度12を指していた。
セレスは自らの吐息さえ聞こえるほど静けさに満ちた空間へと足を進めると、
配電盤を覗き込み、ブレーカーを一つずつ指で引っ掛けていった。
最初のもので部屋の明かりがつき、次の数個後でマシンが起動する。
観戦用モニターにノイズが混ざり、直に対戦画面に切り替わると、
セレスはマシンの口を開けた。


「ゼロのデータは入ってねぇみてぇだな。」


ふと、背中に届く声に振り返る。
リョーコはセレスの挙動に苦笑して、自らもマシンの横に着いた。


「まぁ、いいさ。サツキミドリのリベンジと行こうじゃねぇか。」


「リベンジ?」


意気込むリョーコに首をかしげたセレスは、コックピットに手をかけたまま問うた。


「ああ、あん時は助けられちまったからな、見返すのが道理ってもんだろ。」


不敵な笑みを湛えて、挑戦的な眼を向けてくるリョーコ。
セレスは嘆息して、呆れた顔を晒すと憐憫の情がこもっているかのような目を向けた。

確かに、サツキミドリで苦境に陥った時にリョーコはサポートしかできなかった。
彼女は彼女なりにそれを苦にしていたのだろう。
だが、実戦でそのような生ぬるいことは喚いていられない。
敵には勝てばいいのだ、それ以上でもそれ以下でもない。
リョーコの言うことも一理あるが。


「別に恩を売ったわけじゃない。」


呆れた…といった思いがそのまま表情に出てしまっていたらしく、
リョーコはムッと顔を顰めた。


「けっ、そういうのがムカつく。」


「そういうものか?」


苛立った様子でシミュレーターに身を沈ませ、リョーコは言う。
逆にそれが不可解だったのはセレスだった。


「格好良く撃墜スコア伸ばせる奴に言われると、特にな。」


なんとも成しに呟いた言葉。

その言葉に、セレスは内心で激昂した。







「…良いだろう。全力で相手をしてやる。」








その声音は静かであったが、内にせり上がる憤激は隠しきれておらず。
空気とリョーコは揃って身を振るわせた。









そして、現在に至る。

最初はゼロを操縦していた時のイメージのままだったのだが、
今ではもうエステバリスは手足と同等。
IFSという擬似神経を通して繋がっているかのよう。

セレスは、今になってリョーコの言葉を聴いたときに良く掴みかからなかった物だ、
と、己自身を笑った。
一頻り笑い、コックピットの中で1人舌打ちをする。
それは先ほどの言葉に向けられていた。
『格好良く撃墜スコアを伸ばせる奴に言われると、特にな。』
繰り返され、繰り返されて、繰り返されるその言葉。

―――格好良く?スコア?)

そして、繰り返され、繰り返されて、繰り返される度に苛々が積もっていく。

(冗談じゃない、これは…戦争だ。)

毒々しく呟いた後、セレスは歯を噛み締めた。



銃撃音を耳で拾った瞬間に、灰色のエステバリスは腰のイミディエットナイフを抜く。
煙幕が気流と同じ形を真似、伴って飛び出す弾丸。


「…!」


風を切る音が過ぎ去る寸前、エステバリスは身をそらし、自らの腕から伸びるワイヤーを断ち切った。
ブツン、と重い金属音が振動となり、音となる。
それらを感じながらも、セレスは未だ飛び込んでくる射線を逸れ、
地面に突き刺さっているナイフ睨んだ。
片腕が無い現状では、二本同時につかむことはできない。
しかしセレスはそんな状態にもかかわらず、思考の若干のタイムラグを億尾にも出さずに直進した。
左腕に持ったナイフを滑らせ、人差し指と親指のマニュピレーターに挟む。
突き刺さったそれを薬指と中指でとった刹那、セレスは前者のナイフを晴れない煙の空に投げ放った。









一瞬揺さぶられ、方向の変わったワイヤードフィストに弾丸が突き刺さる。
勢いを相殺された拳は重力に従い、落下した。
その場景を見て、リョーコは鼻を一つ鳴らす。


「やったか?」


ワイヤーの切れたフィストに、微かに震えた声。
それをかき消すかのごとく、警鐘が鳴り響くのは瞬きもしない時だった。
慌てて首を振るが敵の姿は無く、最初にやられたパッシブソナーとサーマルセンサーも働かない。


「上か!?」


焦燥交じりの声と顔を上げる。
だが、次の瞬間視界がホワイトアウトした。
いや、彼女が落ち着いていたのならわかったであろう。
見上げた直上には狂暴に輝く太陽が合ったのだ。


「くそっ!」


悪態をついてワイヤードフィストを飛ばす。
大分慣れてきた瞳を凝らし、一点の影を見るとそれはナイフ。


「何ぃ!?ナイフだぁ!?」


驚愕すると同じくして、漸く晴れてきた粉塵の中からエステが躍り出た。
その巨大な体躯に埃を纏わせつつ、左手に握ったイミディエットナイフが煌く。

嫌な衝撃音をリョーコが知覚した時には既に、
セレスのナイフがアサルトピットカバーの上部からアイセンサーの間に突き刺さり、
コックピットを深々と抉っていた。








【YOU WIN!】








機械的な擬似音声がくすんで響いた。
正面の観戦用モニターに、灰色のエステバリスのナイフが赤いエステバリスに突き刺さるまでのリプレイが映る。
両機とも損害率は軽微で、セレスは右腕のみだったが、
リョーコのほうは、アイセンサー中破、コックピット全壊、パイロット死亡とまで評価されていた。
実戦ならこれは事後報告として受理される物である。
無論今回はシミュレーターであるから実質の被害はない。

その中で、リョーコは1人やりきれない気持ちを抱いていた。
先ほどまでの暗鬱な気分が晴れるとも思ったが、これでは坂を転がる自信に勢いをつけたようなもの。
やはり、セレスは強かった。
それを確認できた冷静さをもっていたのは僥倖と言えよう。
重ねて、サツキミドリコロニーでイレギュラーに直面したセレスの対応は迅速だった。
共に、今回の戦いを見てもリョーコはセレスに一撃すら入れていない。


「はぁ…」


溜息を禁じえなかった。





マシンから出て、リョーコは背を預ける。
キャップを閉めたままのボトルを開き、口に持っていくと気の抜けた甘みが体に沁みた。
一足先にマシンから出ていたセレスを見ると、彼女は声を深めていった。


「リョーコ。」


「ぁんだよ。」


ぶっきらぼうな応対に、セレスはますます顔を顰める。


「今回の敗因がわかるか?」


「わからねぇ。」


不機嫌面でセレスを睨むリョーコだが、今になっても戦闘の余韻が抜けきれていなかったからだろう。
眼前のセレスの表情に気づかなかったのは。

普段なら絶対に見せない、表面無感情な顔。
万人が見れば人形を想いうかべるその顔も、名のある画家が見れば怯えたに違いない。
彼女の内面から染み出してくる、居心地が悪くなる感じ。
俗に重圧と呼ばれるそれが、リョーコの言葉で薄皮一枚分重くなった。


「なら、教えてやる。」


美しい顔に不気味な怒りを付け、漂わせた深い声音がリョーコに届いた。


「これに足りない物はなんだと思う。」


彼女の後ろでしつこく繰り返されるリプレイ映像。
灰色のエステバリスが地を蹴り、天を仰いだ赤いエステバリスが無残に倒れ伏す。
コックピットを貫かれただけに爆発は起こらない。
だからこそリアリティが押し寄せてくる。
だが、そこには完璧なリアリティが欠けていた。

それを親指で指し示しながら、セレスはリョーコを睨んだ。


「…。さぁな、わからねぇや。」


不貞腐れた子供のように、口を尖らせてモニターを見やるリョーコ。
その顔を見て、セレスは落胆したかのように眼を薄く閉じた。


「ふっ、なら負けるのも道理に適っている。」


「ああ?どういうことだ?」


徐々に雰囲気が剣呑さを拾って集めていく。
喧嘩腰に声を荒げたリョーコは理解不能な発言に苛苛していた。
現実、彼女は気質の通り、まどろっこしいこと…つまり間接的なものを嫌う。
それが所以、だからセレスの言い回しが気に入らなかった。


「単刀直入に言ってやろう。」


対して、セレスは物分りが悪い子供に言い聞かせるような生易しいことはしなかった。
ただ、彼女の立ち振る舞いが容姿と重なり、相手を見下しているような錯覚を覚えさせる。
腕を組んで、大きな息を吸い込むのがやけに長い時間のように感じられた。
シミュレートマシンの起動音が一瞬止んだかと思える閑寂が支配し、
二人の視界には双方しか入らず、次の言葉がない限り、この時が動くことはない。







「お前は、戦いを履き違えている。」







その言葉が、リョーコの一番深い部分を抉った。


「教えてやる、このシミュレーターにはないリアルを。」


振り返る。
セレスがリョーコに背を向ける。
まるでそれは愛想をつかしたとでも言うように。


「見ろ。この現実にまみれた嘘を。」


あえて何処かと示唆はせず、セレスの目は一心にモニターを睨むばかり。
存在が許せないと言う、その眼。

モニターの中で踊り狂うエステバリス達の舞。
その終幕は背徳で終わる。
決して許されない罪の背徳。
赤褐色の大地が砕け、風が泣き叫び、そしてエステバリスは一瞬の世界に動きを止める。
ぎらつく銀色の刃が断頭台のように振り下ろされ、突き刺さった。
不快の音と刻まれた甲高い音に、思わず身震いするリョーコとは別に、
赤いエステバリスはゆっくりと力を失っていった。
眼であるアイセンサーからは灯が落ち、ガクリと膝をついて無様に転がる。
刃を構えた灰色のエステバリスが悠々とたち雄雄しい姿を呈した。
その形を見て、セレスは顔に歪な造形を浮かべた。
誰もが恐れ慄き、彼女には最も似合わない顔。
激怒、である。


「まだ解らないのか?」


押し殺していた重圧が、弁を失って奔流のように荒れ狂う。
その矛先は、まだ何が足りないのかわからないといった表情のリョーコに向かっていた。


「コックピットを抉ったというのに、ナイフには血糊一つついていない。」


「ったりめーだろーが、これはゲームなんだからよ。」


嘆息と共に呟かれた言葉に、セレスは怒鳴りあげた。


「それが、お前の敗因だ!!」


突発的に空気を振るわせた怒声に気圧され、体を震わせるリョーコ。
幾分か落ち着いたセレスの息遣い。
しかし、その眼はまだ鋭さを失わない。


「もし、これが実戦だったら?」


ふと、まくし立てる様な口でセレスが言う。


「もし、本当に敵がコックピットを抉っていたら?」


反論を許さない速さで続けた。


「お前は、既に死んでいる。」


急に落ち込んだトーンで語りかけるセレスに、リョーコの気持ちは萎縮していた。

確かに、これが実戦ならリョーコは身体を断裂され、死んでいただろう。
ただシミュレーターだからといってしまえば、それでオシマイ。
それでも、良くできた嘘に塗れてしまった現実が感覚を麻痺させる。
そうすると、いつの間にか感覚が狂う、狂ってしまう。
実戦を訓練と履き違えてしまう。
一つしかない命のクレジットを、できないコンティニューに賭けてしまう。


「別にいいじゃんか、シミュレーションだから。」


リョーコの仕草を見て、セレスは間髪いれずに口を開いた。


「練習で出来ない事を、実戦でできると思うな。」


厳格な口調で一刀両断した甘え。
すると、リョーコは少し潤んだ瞳でセレスを見据えた。


「いいか?実戦とシミュレーションは違う。」


セレスに縋ろうとするリョーコの甘えさえ絶ち、セレスは語気を静めながら言葉をつむいだ。


「さっきの戦闘だって、足掻けば状況は変わっていただろうさ。」


怒りの矛先が変わっていく。


「だが、それを諦めた時点で、お前は既に自分自身に負けていたんだ。」


「…。」


最後にいたっては、諭すような口調に変わっていったセレスの言葉。


「それに、私はお前に死んで欲しくない。」


一瞬、哀切が漂った呟きにハッとしてリョーコが顔を上げると、
セレスは自虐的な笑みを浮かべ、目をそらした。


「だから、足掻け。自分に見切りをつけるな。」


力強い言葉に変わって行く。
今までの厳しさがまるで時雨のように残るも、確かな優しさがリョーコの心に流れてきた。


「諦めたところ、見切りをつけたところが、終着じゃないからな。」


「…。」


黙りこむリョーコの頭に、セレスの手が乗せられる。


「強くなりたいのなら、手伝うぞ?」


最初に言っていた、リョーコの言葉をあえて蒸し返すようにセレスが言う。
リョーコが改めてセレスの顔を見ると、その顔は、笑顔。
溜め込んでいた毒気を全て抜かれてしまったかのごとく、リョーコは肩に入っていた力をどっと抜いた。
それから大きく息を吸い込んで、大きく吐く。
胸に溜め込んでいた悩みと共に、自然と表情も和らいでくる。
その様子を見て、セレスは嬉しそうに目を細めた。


「さぁて、今度は宇宙戦でやりあわねーか?」


いきなり立ち上がるリョーコが高らかに言った。
彼女の頭に置きっぱなしにしていた手が落ちるも、セレスは気にも留めず。


「良いだろう。手加減は、しない。」


「かーっ、アレで手加減してたのかよ。」


眼に光が灯る…とはよく言ったもので、上向き加減に顔を擡げたリョーコの眼には照明が映り、
さながら光のように見えた。


「いいぜ、強くなってやるよ。お前を追い抜く以上にな。」


「その日を楽しみにしているよ。」


二人とも不敵な表情で笑いあった後、眼で言葉を交わし、お互いのシミュレーターに入っていった。
















眼で交わした言葉、それは「絶対に負けない」















機動戦艦ナデシコ 

Princess of Darkness

ACT−#5.9 了


あとがき

イェァー!
なんだか似合わないところかなと思いつつ、最近不足しがちだった戦闘シーン描写!
生活に必要な栄養は
ビタミン、ミネラル、カルシウム、戦闘シーン!
なんだか違いますか?
あ、奈良漬がたりないっすか、そうですか。

スイマセンこれ書いてるの徹夜明けなんであとがきが意味不明です(汗

では、次のACTでまた合いましょう!

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