機動戦艦ナデシコ
princess of darkness





ACT-#00 「絶望の果て」
















「アキトは? ねぇ、アキトは何処なの?」






「あの方は…遠くに行ってしまいました…」






「じゃあ、もう逢えないの…?」






「大丈夫です。私が…私が宇宙の果てまでも追いつづけますから」










先刻、今世紀最大と言われる大量殺人と、未曾有のクーデターは終わった。

火星の後継者と言う、木連の幻影達が起こした戦争は、月や地球に住む者を巻き込んだ。



一人の平凡な男までも。



男は、愛する者のため、己を捨て、そして己を殺した。

復讐と言う、執念のために…。

男は聞いた。己に助けを求める声を。そして己を憎む声を…。




男は決意した。どんなに自分の手が汚れても、愛するものを護ると。




そうして始めた、たった1人の戦争。


戦争は、人を狂気に駆り立てる。

男の純粋な『想い』は、彼の心を憎悪と殺意で満たした。




男は絶望した。今まで自分のしてきたことが、なんと幸せだったことか…。

その幸せに溺れ、絶頂だったあのころ。

自分に降りかかる不幸を知らず、堕落して生きていたあのころ。



―――――幸せは、あの時壊された。



燃え上がる炎、女の悲鳴、編み笠をかぶった男の高笑い。

何も出来なかった、あの時、男は願った。




―――力がほしい、こいつ等を殺せる力が…!





そんな願いは…届かなかった。

怒りに震える体は、もう痛みなど感じなくなっている。



男は硬く決意した。




―――――絶対、殺してやる…。





その憎しみに満ちた一言だけを心身に深く刻み、復讐に生きる糧として今まで生きてきた。





だが、復讐は終わった…。

男はふと気づく。人を殺し、自分を殺した、今の自分の姿に…。

血に濡れ、汚れきってしまった己の腕に…。



その手は、その体は、醜く汚れてしまっていた。



だから男は愛する者のところへ帰らなかった。

いや……帰れなかった。

男は怖かった。

自分が拒絶されるのが、愛するものに拒まれるのが…。

自分の腕で愛する者を抱きしめてやれないのが…。



決意したはずなのに…護ると…。

そして、男は知る…。

身を護るだけの力が、本当の力ではないことを。



自分の弱さを…。
















戦いで傷ついたユーチャリスは、宇宙を飛んでいた。

暗闇の様に漆黒を纏った空間。

そして、変えようのない闇を、ユーチャリスは一直線に飛んでいた。








格納庫にて

今しがた北辰との戦闘を終え、ボロボロとなったエステバリスからアキトが降りてきた。

「…………………」

だが、足取りは今までよりも随分と重い。

そんなアキトは、何かを思いつめているような表情で格納庫を後にした。





静かに廊下を歩き、実質二人しかいない戦艦にブーツと床の乾いた音が響き、染み渡っていく。

静寂に彩られた艦内を、アキトはひたすらに歩く、まるで逃げるように足を速めて。

丁度良く、廊下を曲がったところでラピスと鉢合わせた。


「ほぅ、お迎えとは珍しいな…」


突然でいつもならこんな事をしない彼女に軽く驚きつつも、アキトがそう言ったところでラピスはアキトに抱きついた。


「ん…? どうかしたのか?ラピス?」


いきなりの抱擁に驚く素振りも見せず、バイザーの奥の瞳はラピスを見据えた。

唐突にラピスが顔を上げアキトの顔を上目遣いで見つめる。

微かに震えるラピス、彼女は今にも泣き出しそうだった。

そして、ラピスは消え入りそうな声で言った。


「…アキト…辛いの?苦しいの?」


一瞬、アキトの表情が凍り、眉をひそめる。

しかし、何事も無かったようにラピスに聞き返した。


「なぜだ?」


軽く怒気を孕んだ声だったが、アキトは怒って等いなかった。

ラピスの顔が更に泣きそうになる。


「アキトの心…今…悲しみであふれてる…リンクしてるから…わかる。」


リンクとは五感が不自由になったアキトがラピスとリンクすることで、アキトは通常の状態でいられる。



それはつまり、二人の絆だった。




「……どうして?」


疑問の声が届き、バイザーの中の目が少し細くなる。


「俺には…俺には分からない…俺にも………!」


どこか苛立ちを感じさせる呟きが廊下に響く。

アキトはそのまま走り出し、ラピスの視界から消えてしまった。


「…どうして?」


一人取り残されたラピスはそう呟いた。

一人だけの廊下に彼女の声は虚しく、そして悲しくこだましていた…。







ユーチャリスは今、月へ向かっている。

それは先刻の戦いで傷ついたユーチャリスの修理のためであった。

ユーチャリスは、ネルガルが極秘のうちに開発したナデシコCの先行開発型だが、機動力とステルス性は、ナデシコCと一線を隔する。

そのため火力は少し落ちるという結果になったが、闇の皇子にはそれでよかったのかも知れない。

性能のお陰で、『過去』から逃げられたのだから。










「ヒイロカネ?」


ラピスがそう言うと、カラフルなウィンドウがラピスの前に現れる。

これは、ユーチャリスのAI『ヒイロカネ』だ。

ヒイロカネは、ナデシコAからナデシコB、そしてナデシコCに搭載されているAIオモイカネのバージョンアップで、IFSをとおして、接続がスムースになるような工夫もなされている。

万能AIとして今ではその簡易版さえ一般に出回るほど名の知れたAIだ。


「なぜアキトは悲しんでいるの?」


唐突にラピスが問う。

『不明』

だが、最新のAIと言えども、人の心まで見透かすことは出来なかった。

しかし、逆にそれがラピスを刺激することになった。


「どうして、何でアキトは苦しいの?  やっぱり、あの人達のせいなの?  どうして…教えてくれないの……?」


『不明』


「いままで何でも教えてくれたのに……どうして?」


ラピスは、不明、と表示されるウィンドウに苛立ちを覚え、質問を止めた。


「やっぱり、アキトに聞くしか…」


ラピスは、そう言ってシートから立ち上がった。








「……………」

アキトが壁に寄りかかる形で立っている。

『…アキト…辛いの? 苦しいの?』

俺の脳裏にあの声が響く、あの時の台詞は、前に聞いたことがあった。

ラピスからではなく、…ユリカに。


ユリカは、辛い時、悲しい時、何時もそばにいてくれた。


俺を心配してくれた。


俺を励ましてくれた。


俺を庇ってくれた。


俺を叱ってくれた。


俺を…愛してくれた。



だが、俺はどうだ?



愛してくれる人の大切さ、それは、失ってみないとわからない。

言いようの無い喪失感、何事にも耐えがたい…沈黙。

ユリカと共に過ごした、あの頃、矢のように過ぎた時間だったが……。

……楽しかった。



ラーメンの屋台を引いて、みんな笑顔だった…あの頃。






………もう戻れない……あの頃。







不意に俺は、目頭が熱くなった気がした。

バイザーを取って、目に手を当ててみる。


「涙? …もう泣くことなんて無いし、枯れ果てたと思っていたのに…」


見えない目から涙はどんどんあふれてくる。

ただ、声を上げる事なくひっそりと…。

まるで、昔の記憶を洗い流すかのように…。
















不意に誰かの気配がした。

振り返ると、ラピスが泣いていた。


「ラピス…?」


アキトの呼びかけには答えず、手で顔を覆うラピス。

「…アキト…」

小さな、か細い声でラピスが呟く。

「ん? なんだ?」

アキトはラピスの頭を二、三度なでる。

「ユーチャリスは、返さなきゃいけない。 だけど、ユーチャリスを返したら、私はもう用済み…。 また研究所に逆戻り…。  私……アキトと一緒にいたい…!」

ラピスはそういうとアキトに抱きついた。

「もう一人ぼっちはイヤ…」

アキトはラピスの背中に手を回す。

だが、何も言葉にすることは出来なかった。





―――思えば、これがラピスの初めてのわがままだった。










ネルガルの会長室にて

アカツキが腕組して何やら考えている。

そこにエリナが入ってきた。


「火星の後継者のクーデターはさっき終わったみたい、アキト君達も無事らしいわ」


ユーチャリスのドックで最後に見たアキト達の面影を回想したのか、エリナが少し俯き加減で言った。


「あたりまえさ…ユーチャリスとブラックサレナがあれば、彼らはもう無敵…」


アカツキが少し自慢げに答えた。


「…無敵、どういうこと?」


「アキト君とラピス君にはリンクシステムを活用している。
 …つまり通信なんてしなくても相手の心が見えるのさ」


エリナが静かに驚愕する。


「相手の心が…!?」


「まぁ、もうラピス君とアキト君の任務は終わった。 ラピス君は研究所に行って調整、アキト君は…あの体では…もう長くは持たないだろう…」


エリナがアカツキの言葉に反応した。


「長くは持たないですって!?  …良くもそんな事が言えたものね!」


アカツキは顔を伏せる。

彼女は怒っていた。

過去、命をかけて同じ戦場で共に戦ってきたものを、まるで道具の様に言い放ったからだった。


「アキト君がもう長くはない事を知ってあんなことをさせたの!?  それも、年端も行かない女の子にも!  人殺しなんてやっぱりアキト君には似合わなかったわ!  人が変わっていたもの…もう前の面影すら残ってない……」


顔を伏せ、必死にアカツキへの怒りを現す。


「仕方ないじゃないか…」


アカツキの声は心なしか震えていた。


「仕方ないって……。  あなた…そんなに自分の地位が大事なの!?  仮にも、昔いっしょに戦った仲間じゃない!  それを……」


アカツキが顔を上げる…アカツキは泣いていた。


「!?」


「仕方ないじゃないか………」






アカツキの頭に響いてくる、あの時のアキトの声。



















『…アカツキ』


アキトがユーチャリスのドックでアカツキに話し始める。


『なんだい?』


アカツキが自慢の髪をかき上げる。


『おまえにひとつ相談がある…』


『へぇ〜キミが相談とはねぇ。』


『この任務が終わったら言うつもりだったんだが……。  正直、この任務で生きて帰れる自信はあまりない…。  だからこの際言っておく』


アキトの顔が引き締まる。


『俺の命は……もう長くないらしい……』


アカツキの顔が驚きに染まった。


『長くはないだって…!?』


『こんなことで俺は復讐を止めるつもりはない。  だから、あいつが生きていたら伝えてほしい』


『ユリカ君かい?』


アキトの顔が少し緩む。


『そうだ』


『で、なんて伝えれば良いのかな?』


アキトの顔がまた引き締まった。




『………俺は、世界で一番、いや宇宙で一番』


アキトが天を仰ぐ。

その瞳は余り見えていないのに、まっすぐで…。

見えていないはずの彼女を見ている。












『…おまえを……愛していた…と。』







しばしの沈黙…。

『へぇ〜キミも少しはまともな……!!!』

アカツキは悟った。

愛していた、とは、つまり過去形、アキトは死ぬつもりなのだと。

しかし、アカツキはアキトの決意の固さに何も言うことが出来なかった。

アカツキは自分の無力さを呪った。

普段着こなしているスーツが、いやに重く感じたのは、それが初めてだろう。

アカツキは、誰もいなくなったドックで一人呟いた。





『…………バカやろう……』





アキトの思いもよらぬ言動に、驚きを隠せないエリナ。

「…それじゃ…まるで死にに行くような物じゃない…」

エリナの肩は小刻みに震えていた。











月が大きくなって見えてきた。

「もう少しで月か………」

俺は今までの事を思い出していた。

火星に生まれて、両親が殺されたこと。

第一次火星開戦の時、地球に初めてボソンジャンプしたこと。

偶然ユリカと出会って、後を追いかけていったら、戦艦のコックになってしまったこと。

慣れない戦艦の中で、一緒に泣き、笑ってくれた戦友の死。

―――思えばいろいろあったな…。

少し顔が緩むのが自分でも解る。

ナデシコでの『思いで』は、いつしか、俺の大事な宝物になっていた。

ルリちゃんとオモイカネではないけど。


俺だって…。



『あの忘れえぬ日々、そのために今、生きている』



だが、もう昔みたいには……なれない。

素直に正義や熱血を信じることが出来なくなった。


…あれは、白鳥さんが殺されたときだったか…。

…信じていた正義が、目の前でぶち壊された……。

あの時、俺は悟った。

戦争に悪も正義もないと、もう帰らない人の名前を、いくら叫んだって何にもならないことを…。

頭では分かっているのに、心と理性が聞かなくなる。






だから俺は……。









「月まで後五十キロメートル」


沈黙を守り続ける静寂に終わりが訪れる。

ラピスの前にウィンドウが開くが、ラピスはそれに答えず、シートの上で膝を抱えて座っていた。


「悲しい…の? アキトが悲しいと私も悲しい……。何故悲しいの? どうして悲しまなければならないの? どうして悲しませるの……?」


ラピスは一人ブリッジの中で切実に悩むのだった。


「悲しむ…悲しみたくないなら…」


刹那に、顔を上げた彼女の瞳には、固い決意の光が点っていた。










「お、来た来た」


アカツキの視線の先にあるモニターの奥の白亜の戦艦。

傷ついてるが、美しいボディの原型はとどめている。

レーザーに沿って水平移動するユーチャリス。


「さて、これからどうするか…」


ユーチャリスがドックに止まる。

だが、一向にハッチが開く気配がない。

まるで、人の侵入を拒むかのように。









「ん? 着いたのか……」

あたりを見まわすが、変わったことはない。

あのまま眠ってしまったようだ。

突然、あたりに無数のウィンドウが現れる。

…ラピスだ。


「…………」

ラピスの顔に先程までの表情はない。



初めて会った時のような冷たい表情。

一体どうしたのだろうか?







「……今から……月を掌握します」







ウィンドウは閉じない。

「何だと!?」

驚愕の声と共にアキトは走り出していた。








「ヒイロカネ」

ラピスがシートに座った。

そして、IFSコネクタに手を置く。

すると、ラピスの体にナノマシンの模様が浮かび上がった。

「今から、月を掌握。医療機関以外の電力は全てカットして」

『了解』

「全通信手段を強制封鎖」

『了解』

「攻撃衛星へのハッキング開始」

『了解』

ラピスの前に赤と黒の点が並んだウィンドウが現れる。




「誰にも…邪魔はさせない…!」








ラピスのウィンドウから伝わった『月掌握宣言』は、月全土に流れていた。


「いったい、どう言うつもりなんだ?」


アカツキは真っ暗になったドックを見た後、思い出したように立ち上がる。


「とにかく、重役達の召集!」


アカツキは、特別性のコミュニケで重役達に召集をかけた。











アキトがブリッジに入る。


「ラピス!どう言うつもりだ!?」


アキトの声に対し、振り返るラピス、その顔には、何の表情もない。


「……アキトは悲しんでいる。 私は…アキトに悲しんでほしくない。 だったら、悲しむ原因をなくしてしまえばいいと思った。 だけど、アキトの大切なものが、アキトを苦しめている。 アキトは、私といると、悲しみが減っている。 私も、アキトといると、心が安らぐ……。 だから、もう離れないで…」


ラピスの目には涙が浮かんでいた。



そして、表情が無い顔の頬にツゥっと、流れる。


ラピスがドックに着艦させてから行動を起こしたのには訳があった。

ここは、ネルガル所有のドックだ。

ハイテク機器も数多く導入している、本社ともネットワークでつながっている。

つまり、外からハッキングをかけるより、中からのほうが比較的ガードが脆いのだ。











薄暗い非常灯の明かりがこの会議室を照らしている。

光に浮かぶ顔は、皆驚きを隠せないでいた。


「一体どうなっているのだ、説明したまえ…会長」


「あの子供は君のところの管轄だろう!?」


口々に不満の声をあげる重役達。


「静かに!!」


アカツキが声を張り上げる。


「あっちは、何か目的があってこのような行動をとっていると思う。
 そうなら、もうそろそろ通信があって良いはずだ…」


アカツキがそう言った後、まるで申し合わせたかのように、ウィンドウが開いた。

ラピスだった。


「……ネルガル会長…アカツキ・ナガレ…話があるの」


アカツキは自分が指名されたので少し顔を引き締めた。


「なんだい?」


「…私は…アキトと離れたくない。 だから、アキトと一緒にいさせてくれる…。 そう約束をしてもらいたいの…」


ラピスが淡々と述べる。

しかし、重役達が口を挟んだ。


「月を掌握してまで何を言うかと思えば……。 いいかねお嬢ちゃん、私達はね、子供のクダラナイ我が侭に付き合ってる時間はないのだよ。 さぁ、はやく船を返すんだ。」


ラピスの眉がピクリと動く。


「クダラナイ……?」


「さぁ! とっととユーチャリスを返しなさい!」


重役達が更に追い討ちをかける、それが自分達の首をしめるとは知らずに。


「なぜ、一緒に居てはならないの?」


「……そ、そんなこと決まっているだろうが!  所詮実験体のヤツに自由を与えるなどと……」


ウィンドウに黒い影が移る。


「何……?」


アキトの口元が歪む。


「実験体とて人間だ。 自由を求めて何が悪い…!」


アキトがダークトーンの声を更に低くして言った。


「…う…」


重役達はアキトのドスのきいた声に一瞬怯む。

アキトは許せなかった。

地球のヤツらまで山崎と同じようなことを言ったから。

やがて、ラピスは何かを決意したかのように顔を上げた。


「…認めてくれないのなら……」


「?」


ラピスの言葉の意味がわかったアカツキは、それを止めようとした。


「まて! ラピス君! 早まるんじゃない!!」


意味がわからない重役達とアキト。


「どう言う意味だ…?」


アカツキが必死に止めようとするのを見て、アキトは問う。

途端にアカツキの顔が青ざめる。


「…リンクシステムは、不完全なんだ!」


アキトの顔が驚きに変わる。


「!?」


アカツキは続けた。


「実は…君達はリンクシステムの20%くらいしか活用していない。 20%でも互いの意思が読み取れるんだ。 ……これを100%になんかしたら…!」


「……どうなるって言うんだ?」


「どちらかの人格の崩壊、もしくは肉体の融合……」


「!!」


アカツキは更に続ける。


「このシステムはナノマシンにも過敏に反応するから出力を下げて使用していたんだ…。  出力最大にすると肉体の変化…いや、激化と言ったほうが良いか…。
 この実験に志願してくれた社員は50%で発狂した…」


アキトは驚きを更に煽られたせいで口がふさがっていない。


「…ラピス!?」


アキトはラピスに問う。


「アキトと私が一つになれるなら……。 人格なんて壊れたって良い…。 アキトの悲しみを…少しでも減らせるなら…」


「ラピス…」


アキトはまるで愛でるかのような、それでいて遠い目でラピスを見据えた。
リンクシステムのシンクロが50%の域を越える、すると、二人の体が光り始めた。


「これだ…この症状だ…この後発狂を始めたんだ…!」


アカツキはそう言うが、アキト、そして、ラピスもまだ発狂などしていない。
そして、一気にリンクシステムのシンクロが80%を超える。


「……痛い…」


「…ぅ…!」


今、アキトとラピスの体は急速な細胞の激化によって苦しんでいた。
ナノマシンは、骨や筋肉、血管、脳、臓器に入り込み、激痛をもたらしているのだ。
激痛とは、体の急速な成長、衰退の繰り返しで細胞が壊れかけている証拠だった。



リンクシステムのシンクロが90%を超えた。
2人の体がダブって見え始め、ナノマシンの模様が嫌に太く、くっきりと光る体に浮かぶ。


「…ぐ、ああああ!」


「………ぅぅぅ…!」


アキトとラピスに伝わる痛みはもう激痛を通り越していた。
断続的に押し寄せる痛みが、精神と肉体を追い詰めていった。


「…二人とも!もう止めるんだ! これ以上やったら、君達は!」


アカツキが泣き出しそうな声で言う。


「…俺は…ラピスを…俺の復讐の為だけに…手を汚させてしまった…!  …っ!…だからっ…俺は…ラピスに対する…責任を…ぐおぁっ!
 ……取らなければ…はぁはぁ…ラピスが…可哀想…だ……ぐぁぁぁ!」



アキトの体はもう、光に包まれ見えなくなっていた。


「………アキト…ぅ! …アキトぉぉ!…」


それは、ラピスとて同じだ。


「…キミの…君の帰りを…みんなは待っているんだぞ!!  なのに…キミは!!」


アカツキが叫ぶ。


「……アカツキ…ユリカに…ちゃんと伝えてくれよ…」


アカツキは知っていた。
100%を超えて生きていた者がいなかった事を。
だから、なんとしてもこのことは止めなければいけなかった。
そうしなければ、ユリカを始めとするナデシコクルーに申し訳が立たなかったから…。




親友を失いたくなかったから…。





リンクシステムのシンクロが100%を超えた…。
二人の体は、一つになって、溶けていくように見えた。



「ぅあああああああ!!!」


「あああああああああ!!!」


二人の絶叫がこだました後、急に…光が消えた。

何が起こったか分からない部屋。

そこには、何事も無かったかのようにユーチャリスのブリッジが写っているだけだ…。


ウィンドウには、光の粒が粉雪のように落ちていくのが見えた……。







「…僕は…僕はなんてことを…」


アカツキは、誰もいなくなったユーチャリスのブリッジを見て呟いた…。




アカツキは泣いた。
声をあげて泣いた。




一人の親友さえ助けられなかった。





彼の心には、その言葉が、自責の念が、何回も響いていた…………。











――――――――そしてこの日、この宇宙からテンカワ・アキトと、ラピス・ラズリという、命が消えた。


















《あとがき》


ども、書きはじめです。
これは結構前に書いたものなんですよ(苦笑)
かなり前ですね。
稚拙だと思いました?
結構手直し入ってるんでつたないのは地の文、つまり俺のところでしょう。
足りないところを補足しておくと…。

これはシリアスな小説ではありません。

え!?
なんて思った人、これから覚悟してください、否、覚悟しろ。(何を偉そうに)
共同企画なんで(雪ダルマ式ともいう)書体が違うなんてこともありそうになりますが、それは大目に見てくださいな。
おまけしますと、これは劇場アフター→TVに移行するわけなんで(あ、ばらしちゃった)
かなりご都合主義になる場合がありそうですが勘弁ね?(ぉぃ


これからもPODの展開に活目せよ!!


BY しょうへい





どうも、えっと、手直しだけなのですが参加させて頂いてます。

私の実力では、まだ話は書けませんが…。

細かな作業「コツコツ作業」を頑張りたいと思います。

これから末永く、PODを愛して上げて下さい。

では。

BY 八頭

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